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水戸家庭裁判所 昭和48年(家イ)200号 審判 1973年11月08日

本籍・住所 茨城県東茨城郡

申立人 前田文子(仮名)

国籍・住所 アメリカ合衆国カリフォルニア州

相手方 リチャード・オーウエンス(仮名) 他一名

主文

申立人と相手方らとを離縁する。

理由

1  申立の要旨

申立人は昭和三六年一一月一一日相手方夫婦と養子縁組したが、相手方夫婦はアメリカ合衆国に帰国したけれども、申立人は入国許可を得られないため、同国に入国できず、相手方らと離れたまま生活し、今日に及んでいる。

そして、今後も申立人の入国許可の見込みは全くないのみならず、相手方夫婦には既に実子が出生しているので、申立人は相手方らとの離縁を求める。

2  当裁判所の判断

当裁判所調査官矢本強の調査の結果および記録添付の戸籍謄本等を総合すれば、申立人は昭和三一年五月二八日前田治およびトミの三女として出生したところ、治の妹である相手方春子は日本在住のアメリカ合衆国に国籍を有する相手方リチャード・オーウェンスと昭和三二年一〇月二三日婚姻し、両人は間もなく渡米したが、両人の間には子がなかつたため、相手方らは昭和三六年一一月一一日申立人と養子縁組したこと、相手方春子は昭和三八年四月九日アメリカ合衆国の国籍を取得したこと、相手方らが種々奔走したにもかかわらず、申立人のアメリカ合衆国への入国査証を得ることができなかつたため、申立人は養子縁組後も、そのまま実父母に養育されて今日に及び、相手方らとは全く生活を共にしたこともなかつたこと、相手方らの間には申立人との養子縁組後二子が出生したこともあつて、申立人やその実父母および相手方らはいずれも離縁を強く希望するようになつたこと、今後も申立人の入国査証を得る見込みはないこと以上の各事実を認めることができる。

ところで、本件養子離縁には法例一九条二項により養親の本国法が適用されることになるか、養親の本国法(アメリカ合衆国カリフォルニヤ州法)においては養子離縁の制度が認められていないので、同法に準拠する限り、申立人と相手方らとは離縁をなし得ないこととなる。しかしながら、本件において、離縁を認め得ないとすれば、全く養親子としての実体を伴わない養親子関係が永続し、将来申立人と相手方らとの間において、相互に予期もせず、希望もしない相続、扶養その他種々の法律関係の発生を招来することとなるのみならず、申立人の養護を希望する実父母の許にも法律的には帰ることができないこととなる。このようなことは申立人の福祉に合致する所以ではなく、公序良俗に反するものと言わざるを得ないから、本件においては法例三〇条により外国法たる養親の本国法の適用はないものというべく、離縁を認める法廷地法である内国法規を適用するのが相当である。

よつて、調停委員の意見をきき、養子の福祉その他諸般の事情を考慮し、家事審判法二四条により主文のとおり審判する。

(家事審判官 太田昭雄)

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